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苦難と挫折の歴史 第一回「飛べ!ゴブリン」 by セッタ

さて、今日わたし達の暮らしている現代という時代は
様々な科学技術によって支えられています。

地を駆ける新幹線、聳え立つ高層ビル、空を舞う旅客機・・・。

しかし、これらの技術を現代の完成した姿とするまでには、多数の先人達の努力と犠牲を
伴ってきました。時には数十、時には数千の尊い命が犠牲となったのです。
軍事技術もこの例外ではなく、これまで幾多の挑戦と挫折を経て今に至っています。

恐らく、軍事技術と聞いて皆さんは
「凄い」「強い」とか「完璧主義」「合理主義」とか
いった言葉を連想するのではないでしょうか。

事実は違います。

ぶっちゃけた話、全然凄くも強くもないし完璧でもない、
ましてや合理的の「合」の字のかけらもありません。
これから数回に分けて、先人達の努力の結晶―・・・結果的には失敗と終わってしまった、
知られざる過去のおもしろ兵器たちを紹介していきたいと思います。

前フリが長かったですが、ここからが本題。

時は1940年代後期、連合軍の勝利に終わった第二次世界大戦は新たなる局面へと
シフトしつつありました。東西冷戦です。

2つの超大国は叡智の結晶たる原子爆弾の開発に成功していました。
しかし当時は弾道弾の開発には成功しておらず、原爆を実際に使用するためには
爆撃機が直接敵国まで侵入し、上空から投下する必要がありました。
当然、敵地には迎撃機が配備されており、爆撃機単体で侵攻したのでは
いとも簡単に撃墜されてしまいます。

「だったらこっちも爆撃機の護衛に戦闘機を随伴させればいいじゃないか」

なんて思ったあなた、鋭い。その通りです
しかし当時のジェット戦闘機は航続距離が短く、とても爆撃機に付いて行くような
能力はありませんでした。

「・・・だったら別の爆撃機に戦闘機を搭載して、戦地で発進すればいいじゃん!」

まさに空中空母。一見、こどものような発想のこの意見ですが、
実は米軍ではその時、この構想が真剣に検討されていました。



マクダネルダグラス XF-85 “ゴブリン”
苦難と挫折の歴史 第一回「飛べ!ゴブリン」 by セッタ_d0002883_180892.jpg

たまご型の形状がなんと愛くるしいのでしょう。

パラサイトファイター「寄生体戦闘機」と名づけられたこの機体は、爆撃機の胴体下に
懸架され、敵地で出撃、戦闘後には帰還するという
実に画期的なシステムを搭載した戦闘機でした。
継続飛行時間は30分もないですが、そんなことは問題になりません。
だって再び爆撃機に帰還すればいいんですから。

1948年 試作されたゴブリンの飛行試験が実施されました。
切り離しはスムーズ、飛行特性も悪くなかった。
紛れもなくゴブリンは優秀な戦闘機と言えました。

しかし問題は帰還の方法です。
苦難と挫折の歴史 第一回「飛べ!ゴブリン」 by セッタ_d0002883_180299.jpg

「母のもとに帰るゴブリンの生態を収めた貴重な一枚」

上の写真でも分かるように爆撃機側にあるキャッチャーのような設備に
機首につけたフックを引っ掛け、回収するという実にデンジャラスなシステムだったのですが、
爆撃機のプロペラから発生する乱気流の中、あんなものにフックを引っ掛けるというのは
神業以外の何物でもなく、結局、第一回飛行試験でゴブリンは
キャッチャーに頭をぶつけ失速、のち墜落という悲惨な結末に終わりました。

しかし米軍はあきらめません。ゴブリンをあきらめない。

数カ月後、機体を修理し再度実験が行われました。

「成功するのか・・・。」
「また失敗するのか・・・。」

固唾を飲んで見守る技術者達。

そして着艦の瞬間・・・彼らの歓声がこだましました。
なんと見事キャッチャーにフックを引っ掛けることに成功、
ゴブリンは無事に母の元へと帰ったのです。

そしてその後に行われた数回の試験の後、ゴブリンの量産計画が議会で承認され、
正式にF-85の名を冠されたゴブリンは米空軍に配備される運びとなりました。
よかったね!ゴブリン!

・・・

ウソです。

大ウソです。

その後行われた試験では見るも無残に失敗。そのうえ米軍内で
「ジェット戦闘機の航続距離を伸ばす努力をしたほうがいいんじゃないのか。」とか
「ものすごい速度で飛ぶ爆撃機を開発しようじゃないか!」とか
「そもそも無理だったんだよ。あんなの・・・」なんて心無い意見が続出


こうしてゴブリンは歴史の闇に葬られることとなったのです。



                           次回は「飛べ!夢の原子力爆撃機」です。
長文失礼しました・・・。

  by x_inter01 | 2005-10-20 19:06 | 軍事

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